【新着】「死戦期呼吸」は胸骨圧迫開始のサインです!

「ガイドライン2015」では、「死戦期呼吸」(しせんき・こきゅう)を「普段どおりの呼吸なし」と判断し、直ちに胸骨圧迫を開始することが重要なポイントとなっています。

 従来の「ガイドライン2010」においても、「死戦期呼吸」は「普段どおりの呼吸なし」と判断し、直ちに次のステップに進むとなっていましたが、「呼吸あり」と判断してしまい、直ちに開始しなければならない胸骨圧迫や、その後のAED使用が遅れるケースが多く見られたことから、より重要なポイントとして、この「死戦期呼吸」を見逃さず、「普段どおりの呼吸」ではない「危機的な状況」と判断し、迅速に胸骨圧迫を開始できることが求められています。

 

このHPのトップページにも書きましたが、2002年、ミニ・バスケットボールの大会において、試合中の審判員が突然倒れ、私がバイスタンダーCPR(傍らにいる人による心肺蘇生法の実施)を実施した事例でも、私が現場に駆け付けた時、傷病者には「死戦期呼吸」のひとつである「下顎呼吸」(かがく・こきゅう:口は下顎だけでパクパクと開いたり閉じたりはしているが、実際には呼吸ができていない状態)が出現しており、直ちに心肺蘇生法を開始する重要なサインとなり、倒れた方の完全社会復帰へとつながりましたが、それまでの救急出動において「死戦期呼吸」を見たことがあり、知っていたから判断できたのだと思っています。

 それまで「死戦期呼吸」を一度も見たこともない、そんな呼吸があることを聞いたこともない一般の方が、一見してそれと判断することは、とても難しいと思いますので、今回は、私が救命講習の際、ご説明しているお話しを紹介させて頂きたいと思います。 

「死戦期呼吸」ってどんな呼吸?

「死戦期呼吸」とは、文字どおり「死と戦っている時期の呼吸」であり、いくつかの種類がありますが、判りやすい例で説明したいと思います。

 

健康で安静にしている時、たいていの人は「鼻」を主体に呼吸をしていると思います。

では、200mを全力疾走した直後はどうでしょう?

全力疾走した直後は、大量の酸素を必要とすることから、大きく口を開け、「鼻」よりも「口」を主体にする「ハアハア」という呼吸になると思います。

 心臓が原因で突然倒れる人の多くは、心臓が正常な拍動ではなく、細かくケイレンする「心室細動」に陥って倒れると言われていますが、この時、心臓からは通常のように血液が拍出されていない状態になっています。心臓がケイレンを起こし小刻みに震えていることから、ポンプとしての機能が果たせなくなっているからです。

 心臓から血液が拍出されなくなると、人体で最も酸素を必要とする臓器である「脳」にも血液が送られなくなります。血液は各臓器に「酸素」を運ぶ重要な役割がありますが、この役割が果たせなくなった結果、脳が酸素不足に陥り、意識を失い倒れてしまいます。

 

 それでも、人体では「何とかして、脳に酸素を送りたい」という生命維持のための機能が作動しますが、この時の状態が「健康時に200mを全力疾走した時」と似たような状況になるのです。全身が酸素不足になっていることから、本当は口を大きく開けて呼吸したいのですが、脳が酸素不足となり意識を失っているために、それが上手くできません。

 

 しかし、それでも生命を守るために、口を開けて呼吸しなければならない状況に陥っていることから、どうにか下顎だけを動かし、なんとかして体に酸素を取り込もうとしている状態なのです。例えると、ちょうど金魚がパクパクと口を開けたり閉じたりしているような呼吸状態となり、これが先にご紹介した「下顎呼吸」(かがく・こきゅう)という状態です。

 

 その後、さらに酸素不足の状況が続くため、口を開いたり閉じたりもできなくなってきます。そうすると、今度は呼吸の「量」より「数」で稼ごうということになり、口をわずかに開いたまま「ハッ・・・ハッ・・・ハッ」という、あえぐような呼吸に変化します。

これが「あえぎ呼吸」と呼ばれる状態です。

 

さらに、酸素不足が続くと、「・・・・・ハッ・・・・・・・・・ハッ・・・・・・・・ハッ・・・・」という断続的なあえぎ呼吸に変わってきます。これが「不規則呼吸」と呼ばれるもので、さらにこの状態が継続した場合、呼吸が停止してしまいます。

 このように、「下顎呼吸」、「あえぎ呼吸」、「不規則呼吸」を総称し「死戦期呼吸」といいますが、「死戦期呼吸」は必ずしも「下顎呼吸」から始まるとは限らず、倒れた方の状態により、「あえぎ呼吸」から出現する場合もあれば、いきなり「不規則呼吸」が出現することもありますが、重要なのは、これらの呼吸状態を危機的状況と判断できることであり、そのためには「普段どおりの呼吸」がどのようなものか理解しておくことが大切です。

「正常な呼吸」すなわち「普段どおりの呼吸」がどのような呼吸なのか判らなければ、「異常」は判りません。

 

 ですから、日頃から、最も近くにいるご家族が、普段どのような呼吸(普段どおりの呼吸)をしているのかを一度は見て頂きたいと思います。

 ご家族が「普段どおりの呼吸」をしている時、ご家族の「口」や「お腹」がどのように動いているか?どんな呼吸音がしているか?を、ご自身で「見て、聴いて、感じて」おくことは、とても大切なことです。

「死戦期呼吸」は「死と戦っている状態の呼吸」ではありますが、逆に言えば「救えるチャンスがある時の呼吸」とも言えるものですから、直ちに次のステップである「胸骨圧迫」、さらにはAEDの使用へ「勇気」と「自信」を持って進んで頂ければと思います。

 

 最後に代表的な「死戦期呼吸」の動画をご紹介しますので、ご参考となれば幸いです。

 救える命を救うためにも「死戦期呼吸」を見逃さないように・・・(HIGE)

MENU

★2015・リテイク版

アメリカ救急見聞録

★今後、定年を迎える多くの救急救命士の社会貢献についての提言です。