未来への提言~定年後の救急救命士の社会貢献について~

1 はじめに

 1991年(平成3年)に「救急救命士法」が施行されてから22年が経過し、現在ベテラン救急救命士として、救急現場の第一線で活動している職員が定年を迎えつつあり、今後、私も含めて定年退職者は年々増加していくことが予測されています。


  救急救命士は「救急救命士法」により、その活動の場が「救急現場」及び「救急車内」に限定されていることから、定年退職とともに、活動の場は失われ、永年に渡り救急現場の第一線で培ってきた豊富な経験や技能、救命講習会の講師として培ってきた「応急手当に関する市民指導に必要な知識や技能」を再活用できるステージは非常に少ない状況にあると言えますが、これって、とてももったいないことだと思いませんか?
 

 このような将来像を見据えた中で、どのようにしたら、知識と経験が豊富な救急救命士の資格を有する定年退職者が社会に貢献できるかを考え、「救急救命士有資格定年退職者の小・中学校への配置」について提案することを考えました。

2 期待される効果について

 この提案が実現することによって、いったい、どのような効果が期待できるのかを考えてみました。

 

(1)学校内で発生した救急事故への迅速な対応及び予防効果

  小中学校には、すでに養護教諭が配置されていますが、養護教

 諭の役割は予防対策が主体になるものと考えられます。

  一方、救急救命士は、永年に渡り救急現場の第一線で勤務してきた豊富な経験と 

 救急に関する知識を有しており、校内で発生する子どもの怪我や、急に発生した疾

 患などにおける重症度や緊急度の判断・初期対応に役立つものと思われ、養護教諭  

 の予防対策とコラボレーションすることにより、学校において子ども達を守るため

 の大きな力になるものと思われます。

 

(2)教職員や児童・生徒への応急手当の指導と普及
  永年に渡り「救命講習会」の講師を務めた経験や知識は、心肺蘇生法をはじめ、  

 小中学校に設置されているAED(自動体外式除細動器)の操作方法、学校で発生する多くの外傷や熱中症への対応と対策、外傷処置の要領など、学校の教職員はもとより、児童や生徒を対象にした各種の講習会等を、学校行事として適宜開催することができるようになり、学校全体の応急手当能力と危機管理意識向上の一助になるものと思われます。

 

(3)保護者をはじめする地域への応急手当普及効果と見守り体制の向上  

  前号と併せて、保護者や地域の住民を対象とした学校主催の「応急手当講習会」

 を開催することも可能となり、地域全体の応急手当知識の向上に繋がるとともに、 

 保護者や地域の住民が学校を訪れる機会が今よりも増え、その結果「子ども達の見  

 守り体制」の強化にも繋がっていくと思われます。

3 今後に向けて・・・

 このような取り組みは、日本ではまだ実施されておりませんが、「救命都市」として名高いアメリカのシアトル市では、地域・消防・学校・市の関係機関が緊密な連携を図り、小中学校における児童・生徒、保護者や地域住民への普及活動を行い、その活動が結実した結果、髙い救命率とバイスタンダーCPR実施率を誇る今日のシアトル市が築かれました。


また、ベースボールマガジン社より刊行された埼玉医大救命センターの輿水健治教授が著された「基礎から学ぶ・スポーツ救急医学」においては、スポーツイベント開催時における救急救命士の派遣依頼が推奨されており、「救急救命士は、重症外傷における初期対応や緊急度・重症度判断能力に優れている。」という高い評価を頂いており、平穏無事な日は、学校施設の管理をしている好々爺の老人。でも、もし子ども達に何かあった時は、現役時代の知識と技術をフル活動させて子ども達を守る。そんな「スーパー」な、おじいちゃんがいてもいいのかなと思いませんか?

 

 そして、月に一度、先生方や子ども達、地域の保護者の皆さんへの応急手当指導を行い、この講習会の受講者には、地域の消防機関から修了証がもらえるようにすれば、さらにいいと思います。

 こうした救急に関する知識は、日々進化していきますので、当然のことながら、学校の救急救命士さん達も、日々勉強が必要となりますので、まさに「生涯教育」ということにも繋がり、自ら培ってきた知識と経験を最大限に活用できる、やりがいのある仕事になるのではないかと思っています。

 

 また、学校で、応急手当に関する講習会が頻繁に開催されることで、保護者や地域の住民が学校を訪れる機会も増え、地域と学校の交流の活性化にも繋がり、昨今、重要視されている「地域による子どもの見守り体制」も向上することが期待でき、「安心して子ども達を育てられる街」になっていくのではないかと思っています。

 

 昨年、市の職員提案に、この提案をいたしましたが、残念ながら取り上げられませんでした。でも、どこの市町村が始めてもいい、どこからスタートしてもいいと思いますので、もし、この提案をご覧になってご賛同下さった方は、様々な機会を通じて、皆さんの勤務地において、ご提案して頂ければ幸いです。(HIGE)

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★今後、定年を迎える多くの救急救命士の社会貢献についての提言です。