スポーツ現場の安全のために~スポーツ外傷の標準化対策

 HIGEです。

 今回は、旧HIGEさんHPでも取り上げたスポーツ現場の事故や外傷について、改めて取り上げたいと思います。今回、救命士のお仲間である「キートンさん」が、スポーツ競技中に発生した頚椎損傷を疑わせる救急事故に出動した際、試合の進行を優先するあまり、救急車の到着前に頚椎損傷を疑せる負傷者に対し、行うべき処置を実施しないまま、競技エリア外に搬出されていたという事例を体験したそうです。

 幸いにも、この事例では、負傷者の頸髄に損傷は無かったものの、万一、頸髄、脊髄に損傷があった場合、急いでエリア外に運んだことが、症状を悪化させ、半身不随、最悪の場合、呼吸停止から死に繋がることに大きな危機感を感じたことから、心肺停止事故におけるバイスタンダーCPRとAEDがスタンダード化されているように、スポーツ現場における外傷事故につても早急にスタンダード化を図る必要性を痛感し、参加された「第1回スポーツサミット」のレポートをお寄せ下さいましたので、この場を借りてご紹介させて頂きたいと思います。

「第1回・スポーツ救急サミットに参加して」 By・キートンさん

 

 この度、「第1回・スポーツ救急サミット」に参加しての所感をご紹介したいと思います。今回はスポーツ事故で起こりやすい「脊椎・脊髄損傷」がテーマであり、参加者のほとんどはスポーツトレーナーでしたが、トレーナーを目指して勉強している学生さん達も多く参加していました。 発表者及び助言者(アドバイザー)は、脊髄損傷専門の整形外科医師、現役の救急救命士、NATA(全米アスレチック・トレーナーズ協会)公認のトレーナーが務め、スポーツ現場で発生した事故に対する対処法、現状や問題点について討論しました。

 スポーツの現場では、過去に重大な事故が発生しています。 2003年6月フランスで開催されたサッカーの国際大会「コンフェデレーションズカップ」のカメルーン代表対コロンビア代表の試合中に倒れ、24歳の若さで急逝したカメルーン代表フォエ選手の突然死・・・・

当時、競技場にAEDはありませんでした。

 2006年4月には、東京ドームで行われた巨人対阪神戦の試合中、主審が突然、意識消失し、昏倒したアクシデントが発生しました。幸い、生命に別条はありませんでしたが、その場にAEDが運ばれることはなく、数分間の中断で試合は再開されました。

 2009年8月には、横浜スタジアムで行われた横浜対阪神戦において外野観覧席から観客が転落、救急搬送されましたが、3日後に死亡するという悲しい事故がありました。いずれの事例でも、まずは試合の進行を優先しており、その時に負傷者に行うべき適切な応急手当は行われていませんでした。おそらく「知らなかった」と言ったほうが適切なのかも知れません・・・・

 一方、海の向こうのアメリカではどうでしょう?

 2002年9月、当時アメリカのメジャーリーグ、ロサンゼルス・ドジャースに在籍していた石井一久投手が、試合中に投手返しのライナーを顔面に受け、昏倒するというアクシデントが発生しました。

 この時、救急車がグラウンド内まで乗り入れ、マウンド付近に倒れた石井投手に対し、「パッケージング」と呼ばれる頭頸部の外傷時に行うべき処置をしっかりと行い、搬送を開始していました。

 その間20分ほど、試合は中断しましたが、試合再開を急ぐことなく、観客も誰一人再開しろと騒ぐこともなく、まず、石井投手への応急処置が最優先され、観客はそれを静かに見守りました。診断の結果、頭蓋骨に骨折が見つかり、石井投手はしばらく戦線を離脱しましたが、受傷直後の適切な応急処置もあり、比較的早期にチームに復帰することができました。私は、ここに、スポーツ医学の最先進国であるアメリカと日本の差があると感じました・・・・

 今回のサミットでは、様々な問題点が挙げられましたが、日本のスポーツトレーナーの現状として、しっかりとした知識と技術があり、適切な安全管理体制が整備されているのは一部のトッププロリーグであり、それ以外のアマチュアスポーツの場となると、さほどリスクマネージメントができていないというのが現状だそうです・・・

  アメリカでは、アスレチックトレーナーの資格を取る際には、「脳震盪」や「脊髄損傷」に対する対処法などがカリキュラムにしっかり組み込まれているそうですが、日本のスポーツトレーナーの専門学校などでは特にそうしたカリキュラムは無く、簡単な解剖生理学は学ぶそうですが(骨・筋肉など)、ほとんどはテーピングの実習などだそうです。

 万が一、生命や競技生命に関わる「事故」が起きた場合、「知らない」がために処置できない・・・知識と技術が無いままに手を出したばかりに、二次的損傷を引き起こした結果、訴訟問題に発展することを恐れて何も出来ないことが多いというのが、今の現状なのだそうです。

  デジタル化が進む昨今、スマートフォンなどで撮影された動画は、簡単に動画発信サイトにアップすることができます。特に、スポーツはTV中継などもあることから、リアルタイムに全世界に向けて発信されてしまいます。

 万一、このようなアクシデントが発生した時、「日本のトレーナー能力とはその程度なのか」と評価されてしまうことは、2020年の東京五輪を控える日本にとっては大きなマイナスでもあり、早急にスポーツトレーナーやスポーツ関係者を対象とした「スポーツ外傷のスタンダード化(標準化)」が必要だと強く感じました。

  今回のサミットに参加し、「脳震盪」や「脊髄損傷」は単なる骨折や挫創とは異なり、場合によっては「死」に直結する危険性もあることから、適切な対処法および、このような負傷者の扱い方のスタンダード(標準)化が早急に必要であり、みんなが安全にスポーツを楽しめるように、そして万が一事故が起きても最悪の状態にならないように正しい知識と扱い方を知って欲しいと強く感じました。

 以上、お仲間のキートンさんからのレポートでした。

 キートンさん、貴重なレポートをお寄せ下さり、ありがとうございました。

  このHIGEさんホームページを創設するきっかけになったのも、ミニバスケットボールの試合中において、審判員が突然倒れ、私がバイスタンダーとなったスポーツ現場のアクシデントがきっかけでした。

 スポーツは楽しく、健やかにというのが誰もの願いですが、激しい運動や体の接触がある以上、ケガなどのアクシデントはつきものです。だからこそ、誰もが安全に、安心してスポーツを楽しめる環境が必要であるということが、このHP創設の原点でもあります。

 HIGEさんHP創設から14年が経過しましたが、もうひとつのテーマであるBLS(一次救命処置)とAEDは、年を重ねるごとに普及し、今では「AED」と言えば誰もが知っており、街のあちこちで見かけるようになりました。

 もちろん、BLSやAED同じようにスポーツ現場における安全の必要性も訴え続けてきましたが、そちらの方の普及はまだまだです・・・

 これからも、性別、年齢に関わらず、誰もが安全に、安心してスポーツを楽しめる世の中になるよう、有用な情報を発信していきたいと思います。(HIGE)

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